「君さえ居れば何もいらない」

つんくさんと秋元康さんの違いは何か?

両者は今でこそアイドルプロデューサーですが、元々はミュージシャンと放送作家です。

彼らの信念からアイドル像まで異なるところが多いのですが、それは作詞にも表れています。

 

秋元康さんは、クラスの可愛い女の子に恋している冴えない男子の視点から描くことが多いように感じます。あるいは、オクテの男子に向けた女の子視点の歌。

つんくさんは、恋や友情に悩んだりする女子の歌だと思いきや、宇宙の摂理、人生を語りだしたりと、普通のアイドルだと歌わないような歌詞もあります。

まあ、真面目に論じるのは無粋だと言わんばかりの歌もあります。

 

今回採り上げるつんく作詞作曲の「君さえ居れば何もいらない」は、一人称が「僕」であるということで話題になりました。

一人称に「僕」を使うのは秋元康さんの作詞した楽曲に多い印象があります。

ただし、モーニング娘。の楽曲でも、宝塚を目指したという「Mr.Moonlight~愛のビッグバンド~」は一人称が僕ですし、私が気が付いていない曲もあるのかも…。

 

この曲の一人称が「僕」だと知った時は、流行を意識しているのだろうかと複雑な心境でした。

でも、実際に聴いてみたらただの男の子から女の子へのラブソングではないことに気が付きました。

 

 

「君さえいれば何もいらない」はモーニング娘。53枚目のシングルです。

ブレインストーミング」とダブルA面で、アルバム「The Best! ~Updated モーニング娘。~」にアップデート版の「君さえ居れば何も要らない (updated)」 が収録されています。アップデートヴァージョンは、オリジナルメンバーから田中れいなが抜け、小田さくらが加わっています。

田中れいな在籍時のオリジナル版はアルバムに収録されておらず、シングルのみとなっています。

この曲を初めて聞いたときから、この作品のことをうたっているのではないかと思っていました。

それがこれです。

 

f:id:am02:20150320132915j:plain


少女マンガの古典的名作、竹宮惠子の『風と木の詩』 です。本作は十九世紀後半のフランスの寄宿舎ラコンブラード学院を舞台にした二人の美しい男の子の物語です。絵がとても繊細で美しく、緻密な描写で描かれていて、それとはうらはらに土台がしっかりとした骨太な長編漫画です。竹宮さんは「この作品が読者に受け入れられなかったら、漫画家をやめる」とまで覚悟して連載を始め、この作品を愛し、並々ならぬ執念で描いたそうです。竹宮さんは、この作品の主題である「人間愛」を描きたかったのであって、そのためにえらばれたのがセルジュとジルベールという二人の少年の主人公だったのです。

竹宮さんはこのセンセーショナルな世界をロマンティシズムとして描き上げています。

竹宮さんは「当時はベッドで男女の足が絡まっているのを描いただけで作者が警察に呼び出されていましたが、私は作品を描く上で愛やセックスもきちんと描きたかったの。男×女がダメなら男×男でいけばイイと思ったの」と語っていたそうで、男女の性表現が許されなかった少女漫画界において少年愛という形で人間愛を表現したのでした。


それがなぜ、モーニング娘。の楽曲「君さえ居れば何もいらない」と結び付けられるかというと、この物語の主題に理由があります。絶対的な美貌と色気を持つ小悪魔ジルベールは貴族の家に生まれながらも両親の愛を受けず、伯父の肉体関係を伴う支配によって、彼なしでは生きていけないよう教育されました。そして、「とび色」の肌を持つ少年セルジュは、ジルベールを救わんとして二人で学院から飛び出しパリへ向かうのです。二人は幼少時から様々な悲劇に見舞われ、心に傷を負いましたが、二人が純粋であるが故、心の自由だけは奪い切れなかったのです。 この反抗の精神は歌詞にも読み取ることができます。大人たちの都合で推しつけられる不条理、悲劇……でも、二人で居ることで、抱きしめ合うことだけで人生に意味があるのかもしれない。つまり、「君さえ居れば何もいらない」も『風と木の詩』も<人間愛>という同じ題目を扱っているのです。

だから、『風と木の詩』のファンの方には、「君さえ居れば何もいらない」を聞いてつんくさんのライナーノーツ を読んでほしいし、楽曲ファンの方にも興味が沸いたら漫画を読んでほしいです。

 


僕たちは自由だろ
なのに窮屈だ
「あれはダメ」「それはまだ」
悔しくなるよ


恋して 苦しさを知って
愛の尊さを知って
優しさを肌で感じて
夢みて 努力を覚えて
挫折と孤独を学んで
自分のスケールを悟って


あんなに怯えてた あの日の事を忘れてしまうの
心から誓った 真夜中二人 強く抱き合った


君さえ居たなら何も要らない
この娘の笑顔を誰も奪っちゃだめ
時代が変わっても 僕は変わんない
ゆっくり目をつぶり 口づけさ

太陽が今日もまた美しく顔を出す
まるで僕たちを祝福してるように


僕たちは希望だろ
次の未来の
時にミス 時にサクセス
そして成長


恋して 苦しさを知って
愛の尊さを知って
優しさを肌で感じて
夢みて 努力を覚えて
挫折と孤独を学んで
自分のスケールを悟って


目をキラキラさせて 僕に語った君の将来図は
ただ聞いてるだけで 胸が熱くなり 泣きそうになった


君さえ居たなら何も要らない
僕等の将来は誰も決められない
年齢を重ねても 愛は変わんない
もう一度最初から 口づけさ


I Love Youを今日もまた優しくささやいた
二人の現実が真実となるように


あんなに怯えてた あの日の事を忘れてしまうの
心から誓った 真夜中二人 強く抱き合った


君さえ居たなら何も要らない
この娘の笑顔を誰も奪っちゃだめ
時代が変わっても 僕は変わんない
ゆっくり目をつぶり 口づけさ

太陽が今日もまた美しく顔を出す
まるで僕たちを祝福してるように

 

 

f:id:am02:20150320133020j:plain

 


つんくさんの楽曲コメントは必見です。

モーニング娘。 4/17発売 シングル「ブレインストーミング / 君さえ居れば何も要らない」